かがみや



お銀小銀(おぎんこぎん)

 むかしむかし、ある所に、大きな商(あきない)をしている家が、あったんやと。

 ほの家には、お銀(おぎん)という、ひどうべっぴんの娘(むすめ)がいたんやと。何不自由(なにふじゆう)のう育った(そだった)んやけど、おっかさんが、病(やまい)で死んでもたんやとの。

 おとっあんは、商で留守(るす)をすることが多いもんやで新しい(あたらしい)おっかさんをもらったんやとの。

 新しいおっかさんは、ひどう美せえ(うつくせえ)娘を連れて(つれて)きたんやとの。名前(なまえ)は小銀(こぎん)というたんやと。

 お銀と小銀は、すぐ仲良う(なかよう)なって、いつでも、何をするんでも、一緒(いっしょ)やったんやと。

 ところが、おっかさんは、小銀ばっかかわいがって、お銀には冷たく(つめたく)、

「お銀は不幸(ふこう)になってもいい。小銀だけ幸せ(しあわせ)になりゃいい。」

と、いつも思っていたんやと。

 ある日、おとっつぁんが、長い商に出ることになって、おっかさんにお銀のことを、ようく頼んで(たのんで)出かけたんや。

 ほやけど、おっかさんは、おとっつぁんの留守をいいことに、まま子のお銀をいじめてばかりいたんやと。

 ある日、お銀を捨てて(すてて)しまおうと、山へ連れて行ったんやと。二人(ふたり)の娘は何も知らずに、喜んで(よろこんで)ついてきて、道端(みちばた)の花をつんでは落とし、つんでは落とししながら、どんどん山奥(やまおく)へ入っていったんやと。そのうち、おっかさんは、お銀に気づかれんように、そっと小銀だけ連れて帰ってもたんやと。お銀は、

「おっかさん、どこ!小銀ちゃんどこ!助けてえ(たすけてえ)。」

おっかさんも、小銀も見あたらんので、泣きながら探いた(さがいた)んやと。

 家では、小銀も、お銀のことが気がかりで、眠れもせず(ねむれもせず)、一晩中(ひとばんじゅう)、

「お銀ちゃん、帰って来て!!お願い(おねがい)。ごめんなさい。こんな母さんを許して(ゆるして)!!」

と、祈り続けた(いのりつづけた)んやと。

 あくる朝、お銀は、どろどろになって、疲れ(つかれ)はてて帰ってきたんやと。道に落ちていた花をたよりに、やっと帰られたんや。小銀はうれしくてうれしくて、

「お銀ちゃん、お帰り。よかったね。よかったね。」

と、だきあって泣いたんやと。

ところが、おっかさんときたら、

「あら、おそかったわね。」

と、いうただけやと。ほいてもう、次(つぎ)の手を考えていたんやと。

「今度(こんど)は、川のふちに埋めて(うめて)しまおう。」

って、大きな深い(ふかい)穴(あな)を掘った(ほった)んやと。又(また)、二人を連れて出かけたんやと。おっかさんは、何くわぬ 顔をして、 ほの穴の中へ、お銀をつき落として帰ってもたんやと。

「小銀ちゃん、助けてぇ。」

「お銀ちゃん、しっかりして!!」

「小銀ちゃん、早く助けて!水が入ってくるのよ。だんだん深くなるのよー。助けてー。」

とうとう声も小さくなり、聞こえなくなってもたんやと。

 小銀は、

「お銀ちゃん、私も行く。」

と、水の中へ入っていったんやと。

 あくる日、水の底(そこ)で冷たく(つめたく)なっているお銀小銀が見つかったんやと。

 二人は、しっかりと手を取り合って(とりあって)いたんやとの。

話者:佐藤 嘉津馬  再話者:坂下 淳子  採話地:春江町中庄


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