かがみや



仏泥棒(ほとけどろぼう)

 むかし、むかし、のことやそうな。ある古い寺がありましたんやと。

 ある日のこと、住職(じゅうしょく)が夜中にふと眼(め)をさましなはったんやとの。

 そして何気(なにげ)なしにお御堂(おみどう)を見て廻り(まわり)なはったら、

「これは大変!!」

 ほとけ様が一体(いったい)のうなっていなはったんやと。驚いた(おどろいた)住職は、寺の者をおこして、村の衆(しゅう)にも知らせなはったんやと。

「お寺の一大事(いちだいじ)じゃ。」

と、村の人達は、てんでに棒きれ(ぼうきれ)や、ほうきを持って、泥棒さがしに集まってきたんやとの。

 ほのお寺は、小高い(こだかい)所にありましたんで、石段(いしだん)の上をそれぞれ手分け(てわけ)して探し(さがし)ましたんやと。

 けれども、なかなか泥棒は見つかりませんのやと。

 さて、泥棒は、ほとけ様をかついで死にもの狂い(しにものぐるい)で走った(はしった)んやと。

 走ったって、走ったって、山越え(やまこえ)、野越え(のこえ)、もうへとへとになるまで走ったんにゃと。そして、

「もうこれで大丈夫(だいじょうぶ)じゃわい。」

と、いっぷくすることにしたんにゃと。しばらくしたら、どっかから人の声がするんにゃと。あたりを見まわすと、自分の廻り(まわり)を大ぜいの村人達が、とり囲んで(とりかこんで)いるんにゃと。

 よくよく見ると、なんと泥棒は大きな木のほら穴(ほらあな)の中にいたんにゃと。

 泥棒は、何十里(なんじゅうり)も走ったと思ったんやに、ほんとは、お御堂から、ほんのちょっと離れた(はなれた)とこにある、境内(けいだい)のいけい木のほら穴やったんにゃと。

 ほんで、すぐ見つかって、つかまってもたんにゃとの。

 やっぱり、仏様の御力(おちから)は大きなもんやのう。

話者:秦 菅子  再話者:東郷 和子  採話地:三国町加戸


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