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おべろこ谷(だに)
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むかしむかしのことや。 ある山道(やまみち)を、若い(わかい)女が通ると、 「おべろこやー。ねんねこやー。 ねんねの寝た間(ま)に、まま炊いて(たいて) 赤いおわんに、ままよそて 白いお皿(おさら)に、ととよそて ねんねがさめたら、たべさせよ。 ねんねこやー。おべろんやー。」 と、きれいな歌が流れてくるんやと。ほれを聞くと、誰(だれ)でも立ち止まって、聞きほれてしまうんにゃとの。 |
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「あらー。なんた、うつくせえ声や。こんな山道で、どしたんやろ。誰が歌うて(うとうて)いるんやろ。」 すると、きれいな若い女の人が、赤ん坊(あかんぼう)を大事(だいじ)そうにだいて、出てきたんやと。 「申し訳け(もうしわけ)ございません。赤ん坊がお腹(おなか)をすかせて、泣いて(ないて)困って(こまって)おります。どうぞ、お乳(おちち)をやって下さい。」 と、もらい乳(ちち)をするんやと。 「もつけねえの。ほんなら。」 tいうて、乳をふくませてやったんやと。 |
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ほいたら、ほの赤ん坊が、ものすごい力で、乳をかみきってもたんやと。若い女は、びっくりしてほの場(ば)に倒れ(たおれ)こんでもたんやと。気がついてみると、自分の乳から赤い血が、たらたらと流れているんやと。ほいて、そばには誰もいないんやとの。 この山道を通って、乳をかみきられた女が、毎日毎日続々(ぞくぞく)と出て、後(あと)をたたなかったんやとの。ほんでその谷を、「おべろこ谷」と呼んで(よんで)、若い女達(おんなたち)だけでは、決して(けっして)その山道を通らんようにしたんやとの。 実は(じつは)、赤ん坊をだいた女も、その赤ん坊も、その山のキツネやったんやとの。 |
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話者:高橋 政子 再話者:坂下 淳子 採話地:福井市春日
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