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くも女房(にょうぼう)
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むかしむかし、山ん中に欲(よく)の深い若者が住んでいたんやと。ほいて、いつも田や畠(はたけ)をたがやしながら考えていたんやと。 「何とか、肥やし(こやし)のたまる法(ほう)がないものかのう。」 「そうや、嫁(よめ)をもらおう。そうすりゃ、子供もできるし、肥やしもぎょうさんたまるぞ。そやけどごはんを食べんといて、よう働く嫁さんがいいぞ。」 田んぼや、畠にまく肥やしが欲しい若者は、さっそく嫁さんさがしに出かけたんやと。 ある山の中までくると、女がひとり立っているんやと。 「私は家もなく親もありません。たったひとり身(ひとりみ)です。どうか嫁さんにしてください。働くのがとりえです。」 女の顔を見た若者は、 「あんまり、顔はようないけど働くのがとりえとは気に入った。」 と、すぐその女を嫁さんにしたんやと。 「なるほど、肥やしがたまりだしたわい。」 うれしくなった若者は、なお一生けんめい働いたんやと。 「ほほっ、こりゃ、こりゃ、おもっしえ。いい嫁をもろうたもんじゃ。」 ところが、ある日のこと、若者は米が急にへり出したのに気がついたんやと。 |
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「こりゃ、ちょっとおかしいぞ。」 若者は、山へ仕事に行くと、うそをついて、屋根裏(やねうら)へ入り、嫁さんのようすを見ていたんやと。 ほしたら嫁さんは、八しょう鍋(はっしょうなべ)を出いてきて、ご飯を炊いた(たいた)んやと。 ほのご飯で、どんどんにぎり飯を作り、ほれをもろぶたいっぱいに並べたんやと。 ほれから自分の髪の毛(かみのけ)をふりほどき、ざんばら髪(ざんばらがみ)にしてもたんやと。 |
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髪をふり分けた頭のてっぺんに大きな口が開き、ほいほいとおむすびをほうりこみ始めたんやと。 のぞき見していた若者は、腰(こし)をぬかさんばかりにびっくりぎょうてんしたんやと。 その時、おのれの正体(しょうたい)を見られたと気づいた嫁さんは、 「もう、この家にはいられん。」 と、考えて、ちえをしぼったんやと。 若者は、そっと窓(まど)から出て畠しごとに出ていったんやと。しばらくして家にかえると、嫁さんは、 「おかえりなさい。早くふろに入りなさい。」 と、やさしく声をかけるんやと。ほんで若者は、 「そんなら、ふろに入ろうかの。」 と、入ったんやと。そのとたん、嫁さんはふろ桶(おけ)をかついで、いちもくさんに山の方へ走り出したんやと。 山の上でいっぷくした嫁さんは、 「おまえら!でてこい!生もん(なまもん)をいけどりにしてきたぞう。」 と、仲間を呼ぶんやと。 ふろ桶をおろしたひょうしに少しふたがあいたんで、そのまに若者は家へにげかえり、家じゅうにかぎをかけたんやと。 すると大きな女郎ぐも(じょろうぐも)が、すっとおりてきたんやと。若者は思わず、そのくもを殺したんやと。 それが化けもんの嫁の正体やったんや。 “夜のくもは親と思うても殺せ”というのはこの事じゃわいと若者は思うたといの。 |
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話者:重永 小久 再話者:田谷 芳江 採話地:福井市高屋町
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