かがみや



沖田(おきた)の水あらそい

 むかしむかし、ある暑い夏のことや。

 ふだんから仲の悪い、新作(しんさく)と権平(ごんべい)という百姓がいたんやとの。

 ある日、新作が、

「沖田に水をやらなあかんな。」

と、水欲しさに、昼飯時をねらって、田んぼに出ていったんやと。

 ほいたところが、権平も同じ事考えたやら、先に田んぼに来ていたんやと。ほいて、新作んとこの田んぼの水を、せっせと自分どこの田んぼに入れていたんやと。

「こら!権平。何やってるんや。お前な、いつもうらんとこの水を抜いていたんやな。ただではおかんぞ。」

「おお、どうでもせえや。」

「よっしゃ、おぼえておけえ。」

 二人は大げんかになって、すてばちになってもて、別れたんやと。ほやけど、新作は、胸のふが落ちなんだんやな。

 ある日、権平が、ばさんと、風通しのいい所で昼飯食うていたら、ほこへ、

「今日は、かたきを取りに来たでな。」

と、新作が、ひでえ剣幕(けんまく)で入って来たんやと。ばさんが、

「こりゃ、新作。何をするんにゃの。」

と、手を出したんやけど、間に合わず、権平の頭に三ぐわ(みつぐわ)が、くい込んだんやとの。

 

 権平の葬式(そうしき)も終わって、何日か経った(たった)んやと。

 新作は、胸は晴れたんやけど、今度は、水を見に行くたんびに、権平の顔が目に浮かんできては、消えんようになったんやと。ほいて夜になると、権平の家から、新作の家は、火玉(ひだま)が飛んでくるんやと。赤い大玉がうず巻いて、行ったり来たり、ほれはほれはおとろしい光景なんやと。

 村人達も、おとろして夜は外へ出んようになったんやと。ほれが毎日、毎晩、続くもんやで、新作は、ひどう悩んで、ていねいにていねいに供養(くよう)したんやと。

 ほいたら、やっと火玉が出んようになって、村の人等(むらのひとら)も安心したんやとの。

 
話者:山口 悦子  再話者:坂下 淳子  採話地:福井市二ノ宮


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