かがみや



まね猿(ひとまねざる)

 むかしむかし、村はずれに、雑木林(そうきばやし)があったんや。

 ある日、近くに住む(すむ)次郎吉つっあん(じろうきっつあん)が、たくもん採りに(とりに)行ったんやと。昼めしの入ったこおりを、木の枝(えだ)にひっかけて、せっせとたくもんを集めて(あつめて)いたんや。

「さぁて、よう働いた(はたらいた)なぁ。腹(はら)へったし、飯(めし)にすっか。」

と、一人ごと(ひとりごと)をいいながら、こおりをあけたんや。ほいたところが、中はからっぽ。

「ありゃ。どうしたこっちゃろ。困った(こまった)もんじゃ。」

 ほの日は、仕方(しかた)ねえで、早よ(はよ)帰ったんやとの。ほいて、おっかぁに、ほのおとを話したんやとの。

「ほりゃ、おとっちゃん、きっと猿のしわざに違い(ちがい)ねえ。猿じゃ、猿じゃ。」

「ほんなら、ほの猿をこらしめてやらにゃならん。」

ということになっていろいろと考えたんやと。

 ある日、次郎吉つっあんは、いいことを思いついて、いつものように、べんとうのこおりを持って林へ出かけたんやと。いつものように、こおりを木の枝にひっかけて、いつものように、せっせとたくもん採りを始めた(はじめた)んやと。

 あっちの枝をポン!こっちの枝をポン!と、斧(おの)ではらい落とした(おとした)んや。ほいて今度(こんど)は自分の手をポン!と切り落としたように見せたんやと。ほの手をすぐさっくりにかくして、手がとれてもたようにして見せたんやと。ほいて、斧を下において知らん顔(しらんかお)して一休み(ひとやすみ)するふりしていたんやと。

 それを木の陰(かげ)から見ていた猿は、

「あぁ、あれは、ああやるもんか。」

と、思うたんやと。ほいて次郎吉つっあんが、休んでるすきに、きょろきょろしながら、出てきたんやと。ほいて、斧を手に持ったとたん、ほんとに自分の左手(ひだりて)を、

「ポン!」

と切り落としてしもたんやとの。

 猿は、むかしから、人間のやったことを真似(まね)するもんや。ほれを利用(りよう)してこらしめてやったんやとの。

話者:佐藤 嘉津馬  再話者:坂下 淳子  採話地:春江町中庄


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