かがみや



けちんぼ

 むかし、むかし、それはそれは、大へんなけちんぼの人があったんやといのう。

 神だな(かみだな)や、おぶつだんに、おとうみょうをあげるのにも、ローソクや油(あぶら)はつかわんのやと。ほいて、火打石(ひうちいし)と火打金(ひうちがね)で、ケチン、ケチンとやって、

「そら、おがめ、そら、おがめ。」

と、いうて、チカッ、チカッと光る(ひかる)ときにおがむようにしとったといのう。

 ある晩(ばん)、となり村の、これもまた、そのけちんぼにまけんぐらいな、しみったれの男が、たずねてきたんやといのう。

 家の中は、晩というのに、あかりもつけんし、いろりもたかんし、まっくらやといのう。

 その暗がり(くらがり)の中で、二人(ふたり)とも、いそがしいとゆうて、あわてて用事(ようじ)のことだけ話をして、さっさとかえりかけたんやといのう。すると、

「はきもんを、まちがうな。くろうて、わからんやろ。」

というて、また火打石と火打金で

「ケチン、ケチン」

と、火をうったんやといのう。するととなり村の男は、

「なにを、もったいないことをするんや。そんなむだをするな。わしは、まちがわんように、ちゃーんとはじめから、はだしできとるわい。」

というたといのう。

話者:山口 利夫  再話者:田谷 芳江  採話地:大飯郡大飯町


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