かがみや



あわてんぼ

 むかしむかし、あるところに、おじじとおばばがいたんやといの。

 おじじは、毎日、山へ仕事(しごと)しにいったんやと。

 おばばが朝作ってくれる弁当(べんとう)を持って、おそうまで働いて(はたらいて)くるんやといの。

 ところが、そのおじじは、ひどうあわて者(もん)で、何(なに)やかやと、よう失敗(しっぱい)してたんやわの。

 ある日のことや。めずらしく朝寝坊(あさねぼう)してしもたおじじは、おばばに起こされて(おこされて)、あわてて枕元(まくらもと)にあった弁当をひっつかんで、仕事にとんでいったんやと。

 いいお天気やし、鳥の声を聞きながら、気持ちよう仕事ができたんやと。

「よう働いたで、腹(はら)がへったわい。さて、昼飯(ひるめし)にしようかいの。」

と、いいながら、手ご(てご)の中から弁当出そうと思うたら、なんと、コロンと枕(まくら)が出てきたんやと。ほして、弁当は、どこにも入ってないんやとの。

 

 さあたいへん。おじじは、まっかになって、怒った(おこった)んやと。ほして何もかも、ほっぽり出いた(ほっぽりだいた)まま、一目散(いちもくさん)に山を下りていったんやと。

 走って走って、ハァハァ言いながら、家の中へとび込み(とびこみ)、いきなり、おばばを、ポカポカとなぐりつけたんやとの。

「わりゃ、なんのつもりで弁当に枕なんか入れといたんや。だらけ!」

と、どなったら、

「何するんや。誰(だれ)かと思たら、隣(となり)のおじじでないかいの。なんでこのうらが、なぐられなあかんのや。」

と、隣のおばばはどなり返した(かえした)んやと。

 おじじは、びっくりして、あわてて家をとび出し、今度(こんど)は、隣のわがみの家へ、とび込み、頭をペコペコ下げて、

「おばば、かんにんしてくれ!うらは、家を間違えて(まちがえて)しもての。」

と、謝った(あやまった)んやとの。

 おばばは、何が何やら、さっぱりわからず、ポカーンと、おじじの顔(かお)を見ていたんやとの。

話者:武田 きみ子  再話者:堀畑 のぶ  採話地:福井市上里町


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